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函館家庭裁判所 昭和42年(少ハ)6号 決定 1967年12月27日

本人 D・G(昭二二・七・一生)

主文

本人の収容を継続しない。

理由

千歳少年院長からなされた本件申請の要旨は、本人は昭和四一年七月二六日当裁判所において特別少年院送致の決定を受け、同月二七日以来千歳少年院に収容中のものであるところ、昭和四二年七月一日に満二〇歳に達したため少年院法第一一条第一項但書により同月二五日まで収容が継続され、更に同月二八日同条第二項、第四項に基く当裁判所の決定により、同年一二月二五日までその収容が継続されたのであるが、本人は上記収容継続決定後である同年一一月一六、一七日の両日、その父が危篤のため特別外出を許された際、父の病床から煙草四本を持ち帰り、院内において同僚と共に喫煙した。これは本人が未だ意志薄弱のため誘惑に陥り易いことによるものであつて、犯罪傾向はなお矯正されていないものと思料され、現在処遇段階が一級下にある本人に対し今後の指導方針をたて、最高処遇段階である一級上に至らせるため最少限度必要な二ヵ月の間、再度本人の収容を継続し、この間更に矯正教育を実施する必要があると言うものである。

ところで本件は、既に収容継続中の本人に対する再度の収容継続申請であるので、先ずその適否について判断するに、少年院法第一一条に定める収容継続は例外的なものであり、特に同条第四項においては、収容継続決定をなすに当つて、その期間を定むべきものとされているところからして、再度の収容継続決定により前決定において定められた期間をみだりに延長することは、さきに期間を定めた趣旨を失わせるものと言うべく、又収容継続を法定の限度まで繰返し認めることは、かえつて本人の心理面に悪影響を及ぼす虞れなしとしない等の点を併せ考えると、再度の収容継続決定は、より一層慎重になされるべきであることは言うまでもないところであろうが、しかし、前決定における期間の定めは爾後本人が通常の経過を辿るものとして、その矯正効果を予測し、そのため最少限度必要な期間を定めるものであるだけにこの間さきの予想に反するような経過により、当初期待された矯正効果をあげ得ず、その結果未だ心身に著しい故障があり、又は犯罪的傾向が未だ矯正されるに至らず、そのままの状態で本人を退院させることが不適当であるような場合には、更に改めてこの間の事情を考慮した上、再度必要な最少限度の期間その収容を継続することも又やむを得ないものと言うべく、従つて再度の収容継続申請であると言うことのみをもつて直ちにこれを不適法とすることはできないものと解する。

そこで、進んで本件につき再度収容を継続すべきか否かについて検討するに本人ならびにその実母の各供述、千歳少年院法務教官(分類保護課長)梅沢徹、同(生活指導係長)馬場武雄、同(職業補導担当)水島賢三の各供述ならびに意見および当裁判所調査官柴田欣哉にかかる調査報告書その他一件記録を総合すると、本件申請の理由中に挙げられた反則(喫煙)行為自体はさほど重大なものとは言えないにしても、それが期間満了を約一ヵ月後に控え、しかも父の危篤、死亡という人生で極めて重大な出来事に遭遇しながらその機会に、少年院側の好意的な配慮、信頼を裏切つてなされたものであり、この時点におよんでも本人の当裁判所係属以来一貫して指摘されて来た「意志的に自主性を持ち得ず、洞察力が働かず、他への義理だてを重んじ軽佻浮薄」な性格特性上の問題点がこのような形で現われたとすれば、未だ余後に問題があることは否定できないのであるが、しかし本人の年齢ならびにその入院以来(特に前収容継続決定後)の成績、経過(入院以来の反則事故は本件の外、前収容継続決定前に二回で、その前後には特に問題もなく、受賞は同決定前に努力賞、実科賞各一回、同決定後に努力賞一回)等に照すと本人に対する収容による教育の効果もすでに限界に達した観があり、上記性格上の問題点が早急に(殊に少年院の本件申請にかかる二ヵ月の期間に)改善され現段階以上の教育効果を挙げることを期待するのは相当困難であると言う外なく、本件反則については本人も、十分とは言えないまでもそれなりに考えるところもあつたようで、その後は一応安定した生活を送つていること、およびその帰住先の家庭環境も、父の死による影響は少く、むしろその後、従前父母と別居していた実兄(当三〇年)夫婦が本人の帰住先に同居することになり、同人が家庭の中心となつたことによつて、従来はともすれば本人の我儘を見過し勝ちで今一つ毅然とした指導の面に欠けるところがあると考えられていた出院後の引き受け態勢が更に好転する結果となつたものと認められ、既に本人の退院後の方針も一応定つていることならびに母、兄らの意向その他本件調査審判の結果明らかとなつた諸般の事情を併せ考え、彼此勘案すると、現段階において再度収容を継続するよりは、むしろ本人を即時退院させた上、今後は既に成人となつた本人の自覚に期待し、自らの責任のもとに更生の道を歩ましめるのが相当であると思料し、主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤道夫)

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